ストーリー
暮らしの場所を限られてきた人たちがいる。
自閉症と重度の知的障害があり、
自傷・他害といった行動障害がある人。
世間との間に線を引かれ、囲いの内へと隔てられた。
そんな世界の閉塞を、軽やかなステップが突き破る。
東京の街角で、
介護者付きのひとり暮らしを送る人たち。
タンポポの綿毛をとばし ブランコに揺られ、
季節を闊歩する。
介護者とのせめぎ合いはユーモラスで、
時にシリアスだ。
叫び、振り下ろされる拳に伝え難い思いがにじむ。
関わることはしんどい。
けど、関わらなくなることで私たちは縮む。
だから人はまた、人に近づいていく。
知的障害者のひとり暮らしとは?
知的障害がある人の暮らしの場は
少しずつ広がっていますが
「重度」とされる人の多くは
未だ入所施設や病院、親元で暮しているのが実情です。
そんな中、
2014年に重度訪問介護制度の
対象が拡大され、
重度の知的・精神障害者もヘルパー(介護者)付きで
ひとり暮らしが出来る可能性は
大きく広がりました。
この街で、誰もがともにあるために。
あたらしい暮らしをはじめている人がいます。
出演者
岡部亮佑オカベ・リョースケ
高校を卒業して自立生活をはじめて6年。
抜群の運動神経で
スケボーや一輪車をのりこなす。
その描く絵は魅力にあふれている。
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リョースケさんの日常
たまご。
えーもうさリョースケおにぎりやったし、これ以上たまごやめといて。じゃあ1回おにぎりやめる?
おにぎりやめる。
いやホントにやめんのね?
ホントにやめる。
わかった。じゃあこれ1回冷蔵庫ね。(おにぎりを冷蔵庫に戻す)
(おにぎりをまた取り出そうとする)
イヤイヤイヤ、やめるんでしょ。どっちかにしてよリョースケマジで。たまご4コは入れ過ぎだってさすがに。
桑田宙夢クワダ・ヒロム
10年間の入所生活、
1年間の入院期間を経てハタチで自立。
街角の散歩道を春夏秋冬、
介護者と丁々発止の掛け合いをしながら
歩いている。
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ヒロムさんの日常
ター!
お散歩やめよ。
やだ。
じゃあ行こう シー シーしてください。
ター!
行こう 我慢できる?
できる。
できる。よし 行こう。
ター!
周りの人間にとってはターは非日常なんだけど、僕と彼にとっては日常なので。昔はやっぱり真赤になっちゃって顔が。人一倍僕はあんまりその、周りに対する、自意識が強いんで。恥ずかしいなとか思っちゃうんですけどね
藤原さん頭ある?
ヒロムくんは?
ある。
あるね。みんなあるよ
なんだろうやっぱり表情がすごく豊かになったなと思うのと言葉がすごく増えたし、楽しいなって思ってるだろうなって瞬間がすごく増えたので、親としてみればすごく安心してます。自分の話を聞いてもらえてそれを返してもらえるという経験がすごくおっきいのかなと思います
中田裕一朗ナカダ・ユウイチロー
電車で旅に出たまま
家に帰らなかった中学生時代。
入所生活を経て3年前に自立するも、
騒音などで家を替えること3度。
自分を探す旅を介護者とつづけている。
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ユウイチローさんの日常
ドンドン!(自宅の2階で物音を立てる)
大丈夫。ほんとに大丈夫だから下行け。
大丈夫?
下行け!ほんと大丈夫だよ、大丈夫。下行け!
何かあったらどうするんだっていった時には、責任は裕一朗くんにもあるし私たちにもある。私たちは出来るだけそうしないように、悪い言い方で言えば監視役でもあり、ガードマンなのかもしれない。けどそれはあくまでも、彼の自由を担保するために居るっていうことなんですね
本人が抑えようとしている気持ちはわかるんですよ。入院もしたくないし暴れたくもないし、っていうのはわかるんだけどそれが抑えられない、自分じゃどうすることも出来ないっていう。思えば思うほどどんどん悪い方にいっちゃう
ヨシオカさん今度 キタザワさん今度 ミヤノさん今度
今度ミヤノさん?
はい。
いいじゃん。じゃあ声かけてみようよ。”今度ミューズパーク行くんだけどミヤノさん一緒に来てよ”って、言ってみようよ
ムリー
えー?
ムリだと思う。
尾野一矢オノ・カズヤ
津久井やまゆり園に入所していた2016年、
殺傷事件の被害にあい一命を取り留める。
その後の様々な出会いから
両親と自立を目指しはじめている。
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カズヤさんの日常
息子が何とか一命取り留めて、帰ってきた時に僕の顔見て”お父さん、お父さん”って、今までお父さんなんて呼んだことのない子どもがずっと呼んでくれた、っていうことで。あ、俺間違ってたなって思ったんですよ。息子はずっとそうやって俺を見ててくれたよねって、でも俺は息子をほんとに見てたのかなって思って
だから今思うことね、この事件起きてからいっぱいあります。もしかしてこれを一矢にさせたら出来たかもしれないって。それをさせなかったんじゃないかなあって
おじさん今度?
一矢も俺たちも、いまお互いに青春してるかなって、親子で
お母さんこんど?お父さんこんど?おじさんこんど?おじさんまたこんど-?
またこんど来ます。
ふふふ。
長い間はひとり暮らしはムリだろうけど、出来る時が来たら、何日でも、何ヶ月でも、何年でも、やれたらねえ。いいなあって思います。一矢これからだからね
出演団体
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NPO法人 自立生活センターグッドライフ
1994年に東久留米市に住む重度障害当事者を中心に、「全ての人が地域で当たり前の生活を!」という目的で活動を開始。身体障害者だけでなく知的障害者、重複障害者への支援を行い、特に長時間の介護が必要な知的障害者の自立生活支援を20年以上前に先駆的に開始した。その後知的障害者(重度者を含む)のグループホームを開設し、親元や都内・都外の入所施設から自立への第1歩として利用者を受け入れ、終の住家としてではなく、自立生活へ向けた支援を積極的に展開している。
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NPO法人 自立生活企画
1992年に重度身体障害者の24時間介護制度の実現を求め田無市に設立。田無市をはじめとして保谷(2001年に田無と合併して西東京市) ・東久留米・東村山・小平・清瀬市など周辺市町村においても次々と24時間介護保障を実現。近年は、児童や重度知的障害者の自立支援を積極的に行っている。障害者に「自己選択」「自己決定」「自己責任」を求める「突き放す自立支援」ではなく、時には厳しく、時には甘く、時にはあいまいに寄添いながら、介護者と障害者が互いに責任を取り合う関係性の構築を目指して自立支援を行っている。
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練馬区介護人派遣センター
どんなに重度の障害を持っていても、一人の社会人、一人のおとなとして、自分の望む地域で、自立しあたりまえの生活をしていけるように…そんな想いがあつまって、障害者と介護者が一緒に作りあげてきた団体です。
スタッフ
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監督・撮影・編集
宍戸大裕 ししど・だいすけ
映像作家。学生時代、東京の自然豊かな山、高尾山へのトンネル開発とそれに反対する地元の人びとを描いたドキュメンタリー映画『高尾山 二十四年目の記憶』(2008年)を製作。東日本大震災で被災した動物たちと人びとの姿を描いた「犬と猫と人間と2 動物たちの大震災」(2013年劇場公開)、人工呼吸器を使いながら地域で生活する人を描いた「風は生きよという」(2016年劇場公開)、知的障害がある人の入所施設での人生を描いた「百葉の栞さやま園の日日」(2016年製作)がある。
過去作品
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音楽
- 末森樹 永原元
音響構成・整音
- 米山靖
宣伝デザイン
- 林よしえ
宣伝イラスト
- 木下ようすけ
題字
- 岡部亮佑
公式HP製作
- 馬渕陽子
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特別協力
- 全国自立生活センター協議会
助成
- 公益財団法人 キリン福祉財団
企画・製作
- 映画「道草」製作委員会